自筆証書遺言は、公正証書遺言にくらべ、安価に簡単に作成できることが魅力です。
しかし、それはあくまでも「遺言書を残す側」の事情。
遺言書を開封する側……つまり相続を受ける側には、公正証書遺言にはない手間が増えることを覚えておいてください。
それが、今回のタイトルにもある「検認」
自筆証書遺言は、すべて自筆で書かれた遺言書のこと。
思い立ったとき、一人で、どこででも、自由に書くことができます。
となると、遺言を書いた人間以外、誰一人として内容を知らないなんてことも珍しくありません。
ドラマなどでも、遺言書が出てくるシーンで、内容について「本当に本人が描いたのか」「誰かが勝手に内容を書き換えたのでは」なんて疑いが発生するシーン、ときどきありますよね。
検認では、そういった不安定な要素のある遺言書を、一度裁判所を通して「遺言があること」を明確化し、保全することができます。
検認を行うのは裁判所。
ですから、遺言書を開封する前に、裁判所に申し立てる必要があります。
裁判所に「検認をお願いします」と申請したのち、裁判所から、すべての相続人に「亡くなった〇〇さんの遺言書があるよ。〇月〇日に検認するから来てね~」という内容の通知が送られるので、これにより、たとえ〇〇さんの死亡を知らない相続人であっても遺言書の存在を知ることができます。
このように「検認」には、各相続人への周知という側面もあり、相続人の間の疑心暗鬼の芽を摘むことにも一役買っています。
そして周知ののち、書面にあった日時に、裁判所で検認が行われ、検認ののち、ようやく自筆証書遺言は「遺言書」として効力を発揮することができるのです。
余談ですが、検認通知書は全ての相続人に届きますが、検認を申し立てた人以外は、検認の参加は自由です。
例えば、五人家族の父親が亡くなり、長男が遺言書を発見、裁判所に検認の申し立てをしたとしましょう。
その他相続人である母親、次男、三男には検認日の通知が書面で届きます。
この中で、必ず検認に参加しなければならないのは、検認を申し立てた長男のみ。
残る三名は、各々の事情によって、参加せずともよいことになっています。
本題に戻ります。
さて、検認の前提を説明するだけでも、そこそこの長さになってしまいました。
お分かりでしょうか、どんな制度かという説明だけでもまだまだ語れるのに、相続人たちが実際に「検認」に取り掛かれば、どれだけ面倒な手続きが待っているか……。
ちなみに、民法では、遺言書の「検認」について
――遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。
――相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
(民法:第一〇〇四条 一部抜粋)
――遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万以下の過料に処する。
(民法:第一〇〇五条 一部抜粋)
と定めています。
「検認」は、それほどポピュラーな申し立てではないにもかかわらず、なかなか厳しい言葉が並びます。
しかし、親族が亡くなったあとは、日常生活に加えて、何かと手続きや、親戚対応に追われて日々が過ぎていくもの。
そんな中、遺品整理中に見つけた遺言書を前に「検認しないと!」と思い出せるとも限りません。
自筆証書遺言にて、自分の遺言を作成したい場合は、そういった手続きも想定してみてください。
例えば、遺言書を封じた封筒に、検認をしてから開封するように一筆入れる。
信頼できる人に保管をお願いし、検認についても伝えておく。
近年始まった「自筆証書遺言保管制度」を利用するのもいいかもしれません。
財産の内容次第では、公正証書遺言への切り替えも視野に入れた上で「遺言書」の遺し方について考えてみてください。
最後に。
自筆証書遺言は例外をのぞき、必ず検認が必要です。
例外とは、遺言書を法務局にて保管してもらう「自筆証書遺言保管制度」を利用した場合のみ。
法務局以外の場所(本人の手元や、家族、専門家のもとなど)から出てきた自筆の遺言書であれば、全て「検認」が必要なので、相続人になる方は、見つけた遺言書などを開封する際はご注意ください。
なお、今回は取り上げませんでしたが「秘密証書遺言」という種類の遺言書の場合も、検認は必要です。
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